こた夢
めずらしく、かちゃりと鍵が開き、すたすたと中へ入ってくる音が聞こえる。合い鍵を持っているのはたしかに1人だけなのだが、彼はいつもなら静かに音を立てない人間だ。何かあったのかな、とふかふかとしたソファから立ち上がって玄関へ向かって小太郎を迎えに行こうと、リビングのドアを開いた瞬間、顔を上げる間もなく抱きしめられた。ひょろりと背が高くとも小太郎の鍛えられた肉体、さすが力強い。鼻がごつんと当たって少し痛い。これは赤くなったに違いない。はっきりいうと苦しい。だから、こういうときは「おかえりなさい、わたしのこたろう。」そう言って、もぞもぞ腕を動かしてなんとかたどりついた背中をぽんぽんとするのだ。だんだん、抱きしめる力が弱まってくる頃、わたしのシャツを掴むこたろうの手の震えがシャツ越しに伝わってきた。
赤黒い手が白いシャツを染める
赤黒い手が白いシャツを染める
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